

「・・、あり得ない。」
それは、東京で開催された伝作窯の個展での一幕。
訪れていたのは、多孔質材料を専門とする大学教授。
伝作窯を手にとって、思わず口にした一言でした。
それまで、磁器と陶器を1つに焼き合わせることは不可能だとされてきました。磁器と陶器では土の成分がまったく異なる上、焼き上がりの温度も大きく異なるからです。
下記の表に、陶器と磁器の主な違いをまとめました。
磁器 | 陶器 | 焼成温度 | 高温(1300℃以上) | 低温(1000℃〜1300℃) | 主原料 | 陶石(カオリン、長石などの成分を含む石) | 陶土(粘土や土) | 呼称 | 石もの | 土もの | 見た目 | ガラスのように滑らかで均一。薄く硬い。白い素地。 | 表面に凹凸があり素朴で暖かな風合い。厚みがある。 | 発端 | 北宋(960〜1126年)の景徳皇帝の時代(景徳年間1004〜1007年) | 原始時代の土器 |
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ご覧の様に、陶器と磁器では大きく違う特徴を持ち、焼成温度も全く違っています。多孔質材料専門の大学教授が「あり得ない。」と呟いたのも、この為でしょう。
伝作窯は、この常識を覆す独自のノウハウで、いっさいの糊を使わずに磁器と陶器の焼き合わせを実現しました。
磁器のシャープに光り輝く優雅で滑らかな印象。
陶器の素朴で暖かみのある柔らかな表情。
…異質であるはずの二つの焼き物が、互いの利点をそのままに、お互いを引き立てるハーモニーを奏でています。
今まで成し得なかった陶器と磁器の同時共演が、「陶磁器」により可能となったのです。
独特の風合いを持つ、異端の有田焼の誕生です。


そもそも有田焼といえば、何よりもまず磁器であることが暗黙の了解。陶器が有田焼を語ることは、いわばルール違反です。
ところが実際に合わせてみると、陶器が持つ土の温もりと、磁器が持つガラスのような繊細さが見事に融合し、有田焼に新しい命が吹き込まれました。
伝作窯は窯元としての伝統的な有田焼の技術を駆使し、伝統を守りながらも、新しい美しさを持つ「陶磁器」をこの世に送り出します。
磁器と陶器を1つに合わせるには、絵付けの工程を含めると、何度も焼成を繰り返す必要があります。
手間隙はかかりますが、だからこそすべての陶磁器を一点一点手づくりで仕上げ、心を込めています。

伝統としての有田焼。ルールに固執しないチャレンジ精神。
そして何よりも、手間隙を惜しまないことで生まれる真心。
日用品としては高価ですが、大事に仕舞っておくのではなく、ぜひ日常の中でお使いください。
一日の疲れを癒す一杯のビールのために。
ホッと一息、コーヒーブレイクのために。
あなたに深みのある豊かな時間が訪れることを願って。